2社経営を検討している1人社長の方へ、率直に言います。法人を2社持つことには節税と社会保険料の最適化という大きなメリットがある一方、固定費の増加や経費按分の複雑化など、見落とすと痛い目を見る注意点が7つ存在します。私自身が2026年に東京都内で法人を設立した経験と、保険代理店時代に積み重ねた経営者相談の実務を踏まえて、順を追って解説します。
2社経営を選ぶ前提と背景|1人社長が複数法人を持つ理由
マイクロ法人2社スキームが注目される本質的な理由
1人社長が法人を2社持つ、いわゆる「マイクロ法人2社スキーム」が注目されるようになったのは、社会保険料の自己負担をコントロールできる可能性があるからです。具体的には、事業収入が高い法人(たとえばフリーランス系の事業法人)と、役員報酬を低く設定したマイクロ法人を分けて持つことで、社会保険の標準報酬月額を一定の水準に抑える設計が考えられます。
保険代理店に在籍していた頃、個人事業主から法人成りを検討している経営者の相談を年間で複数件担当していました。その中で「収入は増えているのに手取りが増えない」という悩みを抱えるケースが目立ちました。社会保険料と所得税の両方が増えていくいわゆる「二重の圧力」を受ける状況です。2社経営はこの問題へのアプローチとして機能する場合がありますが、それだけに落とし穴も多い。
法人分割節税の考え方と正しい前提条件
法人分割による節税の基本的な考え方は、事業の実態に応じて複数の法人を設立し、それぞれで役員報酬を調整することで、所得の分散と社会保険料の最適化を図るというものです。ただし、これはあくまで「事業の実態が伴っていること」が大前提です。実態のない形式だけの分割は、税務調査で問題視されるリスクがあります。
私が自社の設立準備をしていた2025年後半、顧問税理士から「2社目はきちんと事業目的を分けてください」と念を押されました。民泊事業とは別に将来的にコンサルティング事業を分社化する可能性を話し合いましたが、「現時点では事業が一体となっているため時期尚早」との判断でした。この言葉は今でも印象に残っています。
私が直面した失敗事例3つ|実体験から学んだ2社経営の注意点
失敗①:設立コストと均等割の試算が甘かった
2026年に法人を設立した際、私が最初に想定が甘かったのはランニングコストの計算でした。法人住民税の均等割は、東京都の場合、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の株式会社で都民税と区市町村民税を合わせると、一般的に年間7万円程度が目安とされています(自治体や条件によって異なります)。
これが2社になると均等割2倍の負担になります。赤字であっても関係なく課される固定費であることを、設立前に十分に意識できていませんでした。「2社目はとりあえず作っておこう」という発想は、固定費の観点からは危険です。1社あたり最低でも年間7万円超の均等割がかかることを、収益計画の出発点に置くべきです。
失敗②:税理士費用が「2倍以上」になった現実
法人が2社になると、顧問税理士への報酬も基本的に2社分かかります。私が契約した際の感覚では、2社目の設立で顧問料が1.5〜2倍程度になりました(契約内容や事務所によって大きく異なります)。さらに、2社間の取引がある場合は移転価格や利益相反の整理が必要になるため、スポットの相談費用も増える傾向にあります。
保険代理店時代に相談を受けた経営者の中にも、「節税のために作った2社目の維持費が想定より重く、結果的に手取りが増えなかった」という声がありました。法人分割節税の効果を試算する際は、税理士費用・均等割・社会保険料の事業主負担などを合計した「固定費の増分」を、節税効果より先に把握することが重要です。
均等割2倍の固定費リスク|2社経営で見落としがちなコスト構造
均等割は赤字でも逃げられない「確定コスト」
均等割は、法人が赤字であっても課税される地方税です。東京23区内に本店を置く資本金1,000万円以下・従業員数50人以下の法人の場合、東京都への都民税と区への特別区民税を合わせると、一般的な目安として年間7万円程度とされています。これが2社になれば、単純に2倍近いコストが毎年発生します。
マイクロ法人2社を「休眠状態」に近い形で維持しようとしても、均等割だけは免れません。1人社長が複数法人を持つ際には、この「何もしなくても出ていくコスト」を年間収支の固定費として最初から組み込んでおくことが必要です。
社会保険料の事業主負担も2社分発生するケース
役員報酬を2社から受け取る場合、社会保険は「主たる事業所」と「従たる事業所」に分けて届け出る必要があります(2以上の事業所勤務の届け出)。この場合、各社の役員報酬を合算した標準報酬月額が社会保険料の算定基礎となります。
つまり、2社に分けることで社会保険料の総額が下がるとは限りません。むしろ、2社目の法人でも事業主として社会保険料の折半負担が発生するため、事業主側のコストが増える可能性があります。「2社に分ければ社保が安くなる」という単純な理解は危険です。設計によっては期待していた効果が出ないケースもあるため、必ず社会保険労務士や税理士に個別で確認してください。
役員報酬と社保最適化の罠|2社経営で押さえるべき設計ポイント
役員報酬の設定は年度の初めに固定されるという制約
法人の役員報酬は、事業年度が始まってから原則3ヶ月以内に決定し、その後は原則として年度内に変更できません(定期同額給与のルール)。これは1社でも2社でも同じですが、2社を経営している場合、それぞれの事業の収益タイミングが異なるため、報酬設定のミスが二重にリスクになります。
私が法人設立の準備をしていたとき、民泊事業は繁閑の差が大きく、月収の振れ幅が大きいビジネスです。浅草エリアはインバウンドの回復とともに需要が戻っていましたが、季節によって稼働率が2〜3割変動します。こうした収益の波が大きい事業では、役員報酬を高めに設定すると法人の資金繰りが苦しくなる月が生じます。2社を持つ場合、それぞれの事業特性に合わせた報酬設計が必要です。青色専従者 法人化 後 切替|失敗しない5ステップ2026最新
社保最適化の設計は「全体最適」で考えること
役員報酬と社会保険料の最適化は、2社合算の手取り額と事業主負担の合計を「全体最適」で設計しなければ意味がありません。たとえば、A社で月額30万円・B社で月額10万円の役員報酬を受け取るケースでは、社会保険の標準報酬月額は合算で計算されます(一般的な目安。個別の状況によって異なります)。
AFP資格を持つ立場から言うと、社会保険と所得税・住民税・法人税を同時に最適化しようとすると、変数が増えすぎて素人判断では誤りが生じやすくなります。2社経営における役員報酬の設計は、必ず税理士と社会保険労務士の両方に相談することを強くすすめます。個人差があるため、一般論だけで判断しないでください。
経費按分と取引の注意点|2社間の資金移動で問題になるポイント
2社間の取引は「独立当事者間の適正価格」が原則
1人社長が2社を経営していると、A社からB社へサービスを提供したり、費用を分担したりする場面が生じます。この場合、2社は法人格が別であるため、取引は「第三者間で成立するであろう適正な価格」で行う必要があります。実態のない取引や恣意的な価格設定は、税務調査で否認されるリスクがあります。
保険代理店時代に経営者から「グループ会社間の売上は自由に決めていいと思っていた」という話を聞いたことがあります。税務調査で指摘を受け、追徴課税が発生したというケースでした。相手方の個人を特定できない形で抽象化しますが、2社間の取引を「社内の振り替え」と同じ感覚で扱ってはいけない、という教訓は非常に印象的でした。
経費の按分ルールを明文化しておくことの重要性
オフィスや通信費・交通費などを2社で共有している場合、経費の按分比率を合理的な根拠に基づいて設定し、書面で明確にしておくことが必要です。たとえば「売上比率」「稼働時間比率」など、客観的な基準を用いることが求められます。
按分の根拠が曖昧な場合、税務調査で経費の一部が否認されることがあります。2社経営における経費管理は、1社の時よりも記録の精度と透明性が求められます。会計ソフトで2社分を別々に管理することは、ミスを防ぐうえでも現実的な対策です。マイクロ法人で資産管理会社の作り方|設立手順と節税効果を解説
2社経営の注意点まとめ|法人を増やす前に必ず確認すべきこと
2社経営で押さえるべき7つの注意点チェックリスト
- 均等割は2社分の固定費として年間収支に組み込んでいるか(赤字でも発生する)
- 税理士・社労士費用が1社時の1.5〜2倍以上になることを試算しているか
- 2社の役員報酬を合算した社会保険の標準報酬月額を把握しているか
- 各社の役員報酬が事業収益の繁閑に対応できる水準に設定されているか
- 2社間の取引は独立当事者間価格(アームズ・レングス原則)で行っているか
- 共有経費の按分比率は合理的な根拠に基づき書面化されているか
- 2社の設立目的・事業実態が明確に分けられており、形式的な分割ではないか
法人化・2社経営の第一歩は書類準備から始まります
2社経営の注意点を7つ挙げましたが、共通して言えるのは「事前の設計と専門家への相談が成否を分ける」という点です。私自身、東京都内での法人設立を経験して痛感したのは、会社の書類や定款の作成ミスが後々の手続きに影響する、という現実でした。設立書類を正確に、かつ効率的に準備できる環境があるかどうかが、スタートラインの質を決めます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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