小規模企業共済の退職金と役員退職金を二重取りする設計は、1人社長の節税戦略として非常に有効です。しかし「どちらも退職所得控除が使えるのか」「受取時期をどうずらすか」を理解していないと、せっかくの控除枠を無駄にします。実際に法人を設立・運営している立場から、共済金Aの受取条件・退職所得控除の重複活用・5年ルール回避策を含む7設計を具体的に解説します。
共済退職金と役員退職金はそもそも何が違うのか
小規模企業共済の「共済金A」とは何か
小規模企業共済は、中小機構が運営する経営者向けの積立制度です。毎月1,000円〜70,000円を掛け金として拠出し、廃業・退職・法人解散などの「解約事由」が発生した時点で共済金を受け取る仕組みになっています。
その中でも共済金Aは、個人事業の廃業や法人の解散・病気・怪我による役員退任などに対応した受取区分です。掛け金合計に対して付加共済金が上乗せされ、長期加入ほど受取総額が増える設計になっています。一般的に、掛け金納付月数が長いほど元本割れのリスクが下がり、240ヶ月(20年)超で受取率が高水準になるとされています(※中小機構の試算による目安)。
税法上は「退職所得」として扱われます。つまり、同じ退職所得に分類される役員退職金と、課税上の「競合関係」が生じます。この点を意識しないまま受け取ると、節税の旨みが半減してしまうのです。
役員退職金との根本的な違いと共通点
役員退職金は、法人が役員に支払う退職給付です。法人側では損金算入でき、受け取る側(役員個人)では退職所得として課税されます。小規模企業共済の共済金Aと同じ「退職所得」の器に入るため、退職所得控除が両方に適用される点が設計上の核心になります。
大きな違いは「原資がどこにあるか」です。共済金は中小機構に積み立てたものが戻る仕組みで、法人の財務状況に依存しません。一方、役員退職金は法人の内部留保や利益から支払われます。財源が異なるため、両方を同時期に受け取るか・ずらして受け取るかによって、退職所得控除の計算が大きく変わってきます。
私が法人設立直後に試算して気づいた二重取りの可能性
役員報酬ゼロで設計しながら退職金を積み上げる発想
実際に2026年に東京で株式会社を設立した時、最初に悩んだのが「役員報酬をいくらに設定するか」という問題でした。役員報酬は社会保険料の標準報酬月額に直結するため、安易に高く設定すると毎月の社会保険料負担が重くなります。
私が選んだ方針は、初期段階では役員報酬を抑えて会社に利益を留保し、その代わりに小規模企業共済の掛け金を上限に近い水準で拠出するというものでした。役員報酬を取ることで所得税・住民税・社会保険料がかかる一方、共済の掛け金は全額が所得控除になります。「役員報酬は取らない選択が戦略になる」と痛感したのはこの時期です。
さらに試算を進めるうちに気づいたのが、将来の出口設計です。会社を解散または役員退任する時点で、共済金Aと役員退職金の両方を退職所得として受け取ることができれば、それぞれに退職所得控除が乗る計算になります。この「二重取り」の可能性を知った時、法人設立の意味がもう一段深く見えてきました。
第1期の試算で見えた現実的な落とし穴
ただし、試算をしてすぐに「完璧な設計だ」とは思えませんでした。共済金Aと役員退職金を同じ年に受け取ると、退職所得控除は「合算して一度だけ」適用されるルールがあるからです(税法上の同年受取の取り扱い)。これを知らずに設計すると、控除が二重にはならず一重のままになります。
また、第1期は売上が本格的に立つ前だったため、税理士を入れずに自分でゼロ申告する判断をしました。税理士の顧問費用は年間10万〜30万円が一般的で、売上が小さいうちは費用倒れになりかねません。「税理士は必要になってから入れる」が私の判断でした。ただ、退職金の受取設計については、実行前に一度専門家に相談することを強くすすめます。個別の状況によって最適解が変わるためです。
退職所得控除の重複活用と5年ルールの正体
退職所得控除はどう計算されるのか
退職所得控除の計算式は勤続年数(加入年数)によって変わります。一般的な目安として、勤続20年以下の部分は1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円が控除額に加算されます(最低80万円の保証あり)。これは役員退職金にも共済金Aにも同じ計算が適用されます。
退職所得の課税額は「(退職金額 − 退職所得控除額)÷ 2 × 税率」で計算されます。2分の1課税と大きな控除のダブル効果により、同額を給与で受け取るよりも税負担が大幅に軽くなります。この仕組みを知っているかどうかで、1人社長の退職設計は雲泥の差になります。事前確定届出給与のメリット|個人事業主が法人化前に試算した7論点2026
5年ルールを知らないと控除が無駄になる
ここで注意が必要なのが「5年ルール」と呼ばれる取り扱いです。同一の人物が複数の退職金を受け取る場合、前回の退職金受取から5年以内に次の退職金を受け取ると、退職所得控除の計算が通算されてしまいます(前回分の勤続期間が差し引かれる)。
つまり、共済金Aを受け取った後5年以内に役員退職金を受け取ると、役員退職金の退職所得控除から共済金Aの加入期間分が控除計算上「引かれる」形になります。二重取りを狙うなら、受取間隔を5年以上開けることが設計の前提になります。逆に言えば、5年以上開けることができれば、それぞれに独立して退職所得控除が適用される計算になります(※個別の税務状況によって異なります。必ず税理士に確認してください)。
受取時期をずらす7つの設計パターン
設計①〜④:時期・事由・役職を分ける基本4パターン
設計①:共済金Aを先に受け取り、5年超後に役員退職金を受け取る
個人事業を廃業するタイミング(または役員退任)で共済金Aを受け取り、5年以上経過してから別の法人の役員退職金を受け取る設計です。それぞれの退職所得控除が独立して適用される可能性が高い設計です。
設計②:役員退職金を先に受け取り、5年超後に共済金Aを受け取る
設計①の逆順です。法人解散・役員退任で退職金を先に支払い、共済金Aの受取を後ろにずらします。法人の財務状況や掛け金の積立額によって、どちらを先にするか判断が変わります。
設計③:複数法人の役員退職金を5年超ずつ間隔を開けて受け取る
複数の法人を設立・運営している場合に有効です。法人Aの役員退職金と法人Bの役員退職金を5年以上の間隔で受け取ることで、それぞれの控除枠を活用します。ただし、事業実態のない法人への退職金支払いは否認リスクがあります。
設計④:共済の掛け金を段階的に増額し、受取時の控除枠を最大化する
加入期間が長くなるほど退職所得控除の計算上有利になります。早期に加入し、売上が伸びた段階で掛け金を増額することで、積立総額と控除額のバランスを最適化します。
設計⑤〜⑦:掛け金・業態・積立を組み合わせる応用3パターン
設計⑤:個人事業と法人の二刀流で共済加入資格を維持する
私自身は民泊事業を個人事業のまま継続し、法人とは事業を分けて運営しています。個人事業主として小規模企業共済に加入し続けながら、法人側で内部留保を厚くして将来の役員退職金原資を蓄える設計です。二刀流は節税戦略として有効ですが、同じ事業を個人と法人に分割する形は税務上の否認リスクがあります。業種を明確に分けることが鉄則です。赤字決算でも融資を受ける5つの方法|公庫申請中の代表が解説
設計⑥:役員退職金の功績倍率を意識した積立計画を立てる
役員退職金の金額は「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」で計算される目安があります(一般的に代表取締役は功績倍率3.0が上限の目安とされていますが、実態・同業他社比較が重要です)。役員報酬の設定が低すぎると退職金の計算基礎も低くなるため、退職金原資を意識した報酬設計が必要です。
設計⑦:解約ではなく「任意解約」と「法人成り」で受取事由を選ぶ
共済金Aは廃業・解散など特定の事由でのみ受け取れますが、任意解約(準共済金・解約手当金)は税区分が異なります(一時所得または雑所得として扱われ、退職所得にはなりません)。法人成りのタイミングで個人事業を廃業し、共済金Aとして退職所得扱いで受け取るのが節税上の王道です。逆に任意解約での受取は課税上の不利が生じるため、解約事由の選択は慎重に行う必要があります。
まとめ:二重取り設計で押さえる5つのポイントとCTA
1人社長の退職設計で知っておくべき5つのこと
- 小規模企業共済の共済金Aと役員退職金はどちらも退職所得として扱われ、それぞれに退職所得控除が適用される計算になる(同年受取は合算される点に注意)。
- 二重取り設計の核心は「5年以上の受取間隔」にある。5年以内に複数の退職金を受け取ると退職所得控除が通算され、控除の恩恵が減少する。
- 役員報酬を抑えて内部留保を厚くする戦略は、退職金原資の積み上げと共済掛け金の所得控除を同時に活かす設計と相性が良い。
- 個人事業と法人の二刀流で共済加入資格を維持する設計は有効だが、事業の切り分けが雑だと税務調査で否認リスクが生じる。業種単位で明確に分けることが前提。
- 任意解約は退職所得にならない。共済金Aとして受け取るためには、廃業・法人解散・退任など適切な解約事由が必要。設計は実行前に税理士に確認することをすすめる。
確定申告・試算はクラウドで効率化する
退職金の受取設計を考えるには、現在の所得・掛け金・将来の積立シミュレーションを一元管理することが不可欠です。私自身、法人設立後の第1期は自分で申告を行いましたが、クラウド会計ソフトを使うことで数字の管理と申告の流れを大幅に効率化できました。
小規模企業共済の掛け金控除の入力・退職所得の計算補助・年度ごとの損益把握など、1人社長が把握すべき数字をすべて一か所で管理できる環境は、設計の精度を上げる基盤になります。まずツールを整えてから、退職金設計・税理士相談の優先順位を決めることをすすめます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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