「自分が死んだら、会社のお金は遺族に渡るのか」——法人を設立してから、私が真剣に考えるようになったのはこの問いでした。退職金と死亡は、マイクロ法人の1人社長にとって切り離せないテーマです。死亡退職金と弔慰金の違いを理解し、相続税の非課税枠を正しく使うことで、遺族に残せる金額は大きく変わります。この記事では、実際に法人を運営している当事者の視点から、2026年時点の制度と実務の両面を解説します。
死亡退職金と弔慰金の違い——混同すると税務で大損する
死亡退職金とは何か:退職の事実が「死亡」である場合の退職金
死亡退職金とは、役員が在職中に死亡したことを退職事由として、法人から遺族に支払われる退職金のことです。通常の役員退職金と仕組みは同じで、法人側では適正額の範囲内であれば損金算入が認められます。
受け取る遺族の側では、死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。ただし、相続税法上の非課税枠が適用されるため、全額が課税されるわけではありません。この非課税枠の使い方が、設計の肝になります。
1人社長のマイクロ法人では、そもそも「退職金規程」が存在しないケースが多い印象です。規程がなければ死亡退職金の根拠が曖昧になり、税務調査時に損金算入を否認されるリスクがあります。後述する規程整備の話と合わせて押さえてください。
弔慰金とは何か:死亡退職金と別枠で存在する非課税の仕組み
弔慰金は、役員や従業員が死亡した際に法人が遺族に支払う「お悔やみ金」です。死亡退職金とは別の概念で、税務上の扱いも異なります。
弔慰金には、相続税上の非課税限度額が設けられています。業務上の死亡であれば「最終月額報酬×36か月分」、業務外の死亡であれば「最終月額報酬×6か月分」が非課税の目安とされています(国税庁の相続税法基本通達に基づく一般的な取り扱い)。この範囲を超えた部分は、死亡退職金と同様にみなし相続財産として課税されます。
つまり、弔慰金と死亡退職金は「別々の非課税枠を持つ別物」です。この2つを合算して考えてしまうと、非課税枠を半分以上無駄にすることになります。マイクロ法人の1人社長こそ、この区別を明確にしておく必要があります。
私が法人設立時に規程整備でつまずいた実体験
「作った後が本番」——定款と規程の整備に後から気づいた
実際に2026年に東京都内で株式会社を設立した時、私は「法人を作ること」に意識が集中していました。クラウドのサービスを活用しながら手続きを進め、設立自体は思ったよりスムーズでした。しかし設立後に痛感したのは、「作った後の方がずっと大変だ」ということです。
その中でも特に後回しにしがちだったのが、役員退職金規程と弔慰金規程の整備でした。設立直後は売上を立てることに精一杯で、「万が一自分が死んだら」という視点で社内規程を整えるという発想が薄かったのです。
ところが、調べれば調べるほど分かってきました。1人社長のマイクロ法人では、規程がなければ死亡退職金の支払い根拠が宙に浮く。遺族が受け取れるはずのお金が、書類上の不備だけで否認されるリスクがある。この現実を知ってから、私は設立初期のうちに規程整備に取り組む判断をしました。
役員報酬ゼロ期間中の規程設計——金額よりも「根拠を作る」が先
私の法人では、設立初期に役員報酬を低く抑え、利益を会社に残す方針を取っています。役員報酬の設定はマイクロ法人の社会保険料に直結するため、安易に高額にすると逆効果になる場面があるからです。
ただ、役員報酬が低い時期こそ、退職金規程の設計を丁寧にしておく意味があります。役員退職金の適正額は「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」で計算されることが多いため、報酬額が低い間は退職金額自体も控えめになります。しかしだからこそ、「功績倍率をどう設定するか」「弔慰金の上限をどう規程に明記するか」という骨格の部分を、早めに固めておくことが重要です。
本音を言えば、「役員報酬はいくら取るかより、取らない選択も戦略になる」と感じています。ただし、死亡時の遺族保護という観点では、報酬額が低くても規程だけはしっかり整備しておくべきです。この2つは連動するようで、実は別の話です。
相続税の非課税枠500万円を正しく活用する方法
法定相続人の数で非課税枠が増える——計算の基本
死亡退職金に対する相続税の非課税枠は、「500万円×法定相続人の数」で計算されます。たとえば法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、1,500万円まで非課税となります。この枠は生命保険金の非課税枠(同じく500万円×法定相続人の数)とは別枠です。
マイクロ法人の1人社長が亡くなった場合、会社から遺族に支払われる死亡退職金が1,500万円以内であれば、相続税が課されない可能性があります(他の相続財産との兼ね合いによるため、個別の事情に応じて専門家への確認を推奨します)。この枠を事前に意識しておくだけで、遺族が受け取る実質的な金額は大きく変わります。事前確定届出給与のメリット|個人事業主が法人化前に試算した7論点2026
一方で、非課税枠だけを意識して死亡退職金の額を設定するのは危険です。法人側の損金算入が認められるかどうかは、あくまでも「功績倍率の基準」に基づいて判断されます。非課税枠に合わせて金額を決めると、功績倍率が適正範囲を超えてしまうことがあります。
生命保険と組み合わせる設計——死亡退職金の財源を準備する
1人社長のマイクロ法人では、死亡退職金の財源を別途準備しておく必要があります。法人が死亡退職金を支払おうとしても、会社に現金がなければ支払えません。そこで有効なのが、法人契約の生命保険を活用して財源を積み立てる方法です。
法人が契約者・被保険者を代表者として生命保険に加入し、死亡保険金を受け取った後に遺族へ退職金として支払うという仕組みです。保険料の会計処理や損金算入の可否は商品によって異なりますが、「死亡退職金の財源確保」という目的では広く使われている手法です。
ただしこの設計は、保険の選び方・規程の内容・支払いのタイミングがセットでなければ機能しません。どれか一つでも欠けると、税務上の扱いが変わることがあります。具体的な設計は税理士や保険の専門家に相談することをお勧めします。
功績倍率3倍までの設定根拠と注意点
功績倍率とは何か:税務調査で問われる「適正額」の計算軸
役員退職金の適正額を判断する際に使われるのが「功績倍率法」です。計算式は「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」で、この功績倍率が税務上の焦点になります。
過去の裁判例や税務行政の実務では、代表取締役に対する功績倍率は一般的に3倍程度が上限の目安とされています。3倍を超えると「不相当に高額な役員退職金」として、超過部分が損金算入を否認される可能性があります。
マイクロ法人の場合、勤続年数が短い設立初期に代表者が死亡した場合、月額報酬が低く設定されていれば退職金額自体も小さくなります。そのため功績倍率を高めに設定したくなる気持ちは理解できますが、3倍を超える設定は税務リスクが高まります。規程で功績倍率を定める際は「代表取締役:3倍以内」と明記しておくことが、実務的には安全な設計です。
同業他社比較法との併用——功績倍率だけに頼らない根拠作り
税務調査で退職金の適正額を争う場合、功績倍率法だけでなく「同業他社比較法」が使われることがあります。同規模・同業種の他社が支払った退職金水準と比較して、著しく高額でないかを検証する方法です。
1人社長のマイクロ法人では同業他社データを自分で集めるのは現実的に難しいですが、規程整備の段階で「功績倍率3倍以内」という数字を軸に設定しておけば、仮に税務調査が入った場合でも根拠として示しやすくなります。赤字決算でも融資を受ける5つの方法|公庫申請中の代表が解説
また、役員退職金規程は株主総会の決議によって承認されることが一般的です。1人社長の場合は自分が唯一の株主であることが多いですが、議事録として残しておくことが大切です。「いつ・どのような条件で・いくら支払うか」を書面で確認しておくことが、後々の根拠になります。
遺族に残すための5つの設計と1人社長が今すぐ動くべき理由
設計の5つのポイント:まとめと優先順位
- ①死亡退職金規程と弔慰金規程を別々に整備する——規程がなければ支払い根拠がなく、損金算入も遺族への支払いも困難になります。設立後できるだけ早期に整備することが重要です。
- ②功績倍率は3倍以内で規程に明記する——税務調査に耐えられる設計にするには、功績倍率の数字を規程本文に書き込んでおくことが実務上の鉄則です。
- ③相続税の非課税枠500万円×法定相続人の数を事前に計算する——家族構成によって非課税枠が変わります。現時点の法定相続人数を確認し、死亡退職金の上限設計に反映させてください。
- ④死亡退職金の財源を法人内で積み立てる仕組みを作る——会社に現金がなければ支払えません。生命保険の活用を含めて財源の確保を設計の一部として組み込む必要があります。
- ⑤弔慰金は業務上・業務外で非課税枠が異なることを把握する——業務上死亡は月額報酬×36か月分、業務外は×6か月分が非課税の目安。この差は大きく、規程に反映させておくことで遺族の受取額が変わります。
1人社長こそ「生きているうちに」設計を完成させる必要がある
税理士が制度を解説するサイトは多くありますが、「実際に法人を作って運営している当事者だからこそ分かること」があると私は感じています。制度の知識より、規程整備の優先順位を後回しにする気持ちや、「まだ早いかな」という判断のしやすさのほうが、現実の問題として大きい。
マイクロ法人の1人社長は、法人と自分の関係が極めて密着しています。自分が倒れた瞬間、会社の意思決定も止まります。だからこそ、退職金と死亡の設計は後回しにできないテーマです。「制度は分かった、でも実際どうすれば」という段階に来たら、まず規程の雛形を探し、自分の会社の数字に当てはめてみることから始めてください。
また、法人運営の日常的な帳簿管理や確定申告については、クラウド会計ソフトで大幅に効率化できます。私も設立当初から活用していて、第1期を税理士なしで乗り切れた背景にはこうしたツールへの依存があります。設計と管理、両方を整えることが1人社長の現実的な選択肢です。
無料の確定申告自動化ソフト マネーフォワード クラウド確定申告
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
