弔慰金を支払った際、「これは損金になるのか」「受け取った従業員に給与課税されるのか」と頭を抱えた経験はありませんか。私が法人を設立して初めて従業員の親族が亡くなった時、慶弔規程がなかったために税理士から指摘を受けました。この記事では、AFP・宅地建物取引士の資格を持つ株式会社代表として、弔慰金にまつわる法人経費の限度額と非課税枠の境界線を実体験とともに整理します。
弔慰金の法人経費限度額:結論から先に伝えます
一言で言うと「社会通念上相当な金額かつ慶弔規程に基づく支出が損金・非課税の両立条件」です
弔慰金が法人の損金に算入でき、かつ受け取った遺族・従業員にも課税されないためには、二つの条件を同時に満たす必要があります。
一つ目は「社会通念上相当な金額の範囲内であること」、二つ目は「就業規則または慶弔規程に金額基準が明記されていること」です。この二軸がそろわない限り、税務調査で修正申告を求められるリスクがあります。
金額の目安として、所得税法施行令第30条では「社会通念上相当と認められる弔慰金」は所得税が非課税と定めています。国税庁の通達では役員・使用人が死亡した場合の弔慰金について、業務上の死亡なら「死亡当時の普通給与の3年分」、業務外の死亡なら「死亡当時の普通給与の半年分」が実質的な非課税の目安として示されています。
なぜその結論になるのか(根拠を3点整理)
- 根拠①:所得税法施行令第30条 弔慰金・見舞金等のうち「社会通念上相当と認められる金額」は非課税所得とされる。逆に超過分は「給与」として所得税・社会保険料の対象になる。
- 根拠②:法人税基本通達9-7-19 役員・使用人の親族等への弔慰金は、慶弔規程の有無と金額の相当性を根拠に損金算入が認められる。規程がなければ「任意の贈与」とみなされ、損金性が否定される場面がある。
- 根拠③:相続税法基本通達3-20 遺族が受け取る弔慰金のうち「業務上死亡なら普通給与の3年分以内、業務外死亡なら半年分以内」は相続税の課税対象からも除外される。法人・個人双方にとって重要な数字だ。
私が初めて弔慰金を処理した時に直面したリアルな話
法人設立2年目、慶弔規程ゼロの状態で従業員の父が急逝した時の話
私が株式会社を設立したのは2019年のことです。設立2年目の2020年春、当時5名いたスタッフの一人の父親が急逝しました。私はすぐに「気持ちとして」3万円の弔慰金を封筒に入れて渡しました。
問題はその後の経理処理です。当時、会社には慶弔規程がなく、就業規則にも金額の定めがありませんでした。翌月、顧問税理士から「この3万円、根拠となる規程がないと損金算入が難しい場合があります。給与課税の可能性も検討してください」と連絡が入りました。
私は「たった3万円で何が問題なんだ」と正直思いましたが、AFP資格の勉強で学んでいた税務の基礎知識を思い出し、すぐに調べ直しました。結果として「社会通念上相当な金額の範囲内」という判断で今回は問題ないとなりましたが、根拠を事後に作るのは不安定です。その月のうちに慶弔規程を整備することにしました。
そこから学んだこと(数字で語る)
この経験から、私が実際に整備した慶弔規程の骨格は以下の通りです。
従業員本人の死亡:10万円、従業員の配偶者・子の死亡:3万円、従業員の父母の死亡:3万円、従業員の祖父母・兄弟姉妹の死亡:1万円。役員についてはこれとは別に取締役会決議で個別対応する設計にしました。
規程整備後、2021年に別のスタッフの祖母が亡くなった際には、1万円を慶弔規程に基づいて支出し、勘定科目「福利厚生費」で損金算入しました。受け取ったスタッフへの給与課税も発生しませんでした。事前に規程を整備していたことで、税理士への確認コストがゼロになり、処理時間も15分で完了しました。規程一枚の価値を実感した瞬間です。
弔慰金を損金・非課税で処理する具体的な手順と判定フロー
損金算入・非課税判定のステップ比較
弔慰金を処理する際は、以下の4ステップで確認します。
ステップ1:慶弔規程の確認 就業規則または別規程に支給基準が記載されているかを確認します。記載がない場合は、支払い前に取締役会議事録で金額と根拠を記録しておくことが次善策です。
ステップ2:金額の相当性チェック 業務外死亡の場合、非課税目安は「死亡時点の月額給与×6か月分」以内です。月給25万円の従業員の父親に3万円を支払う場合、150万円の限度額内なので問題ありません。役員報酬が月100万円の役員本人が業務外で死亡した場合は600万円が目安の上限になります。
ステップ3:支払い先の確認 受取人が従業員本人か、その遺族かで課税の性質が変わります。従業員本人が受け取る場合(例:配偶者の死亡弔慰金)は非課税給与的位置づけ、遺族が受け取る場合は相続税法の非課税枠が別途適用されます。
ステップ4:勘定科目の選択 従業員・その家族への弔慰金は「福利厚生費」で処理します。取引先・顧客への香典・供花は「交際費」で処理するのが原則です。この二つを混同すると交際費の損金算入限度額(中小法人は年800万円)の計算に影響が出るため注意が必要です。
初心者が最初にやるべきこと:慶弔規程テンプレートの整備
会社を設立したばかり、または従業員が初めてできたタイミングで、慶弔規程を一枚整備しておくことを強く勧めます。ひな型は厚生労働省や各都道府県の社会保険労務士会のサイトで入手できます。
重要な記載項目は「支給事由」「支給対象者の続柄と範囲」「金額」「支給時期・手続き」の4点です。金額を決める際の参考として、東京都産業労働局が毎年公表している「中小企業の賃金・退職金事情」に慶弔見舞金の相場データが掲載されています。社会通念上の相当性を説明する根拠としても使えます。詳しい就業規則の整備ポイントについては[INTERNAL_LINK_1]も参考にしてください。
弔慰金処理で起きやすい失敗と私の周囲の実例
よくある失敗4つ
- 規程なしで高額支給して給与課税される 慶弔規程がない状態で役員の親族に100万円を支払い、全額が役員賞与とみなされた事例があります。役員賞与は原則として損金不算入であるうえ、受取人にも所得税が課税されます。二重のダメージです。
- 交際費と福利厚生費を混在させる 取引先社長の葬儀に持参した香典3万円を「福利厚生費」で処理するミスは頻繁に見られます。取引先への支出は「交際費」です。中小法人の交際費は年800万円まで全額損金算入できますが、科目の誤りは税務調査での指摘事項になります。
- 業務上・業務外の区別を誤る 業務上の死亡(通勤中の事故を含む)と業務外の死亡では非課税限度額が大きく異なります。月給30万円の従業員が業務上で死亡した場合の非課税目安は108万円(30万円×36か月)ですが、業務外なら18万円(30万円×6か月)です。この区別を誤ると過大な非課税処理につながります。
- 香典返しの費用を弔慰金と混同する 会社が香典を受け取り、その返礼品を法人経費で購入するケースがあります。香典返しは弔慰金とは別の費用であり、取引先からの香典に対する返礼は交際費、従業員から受けた香典への返礼は福利厚生費として区分する必要があります。
私の周囲で起きた実例:取引先への香典で交際費枠を圧迫したケース
私の知人が経営する製造業の法人(従業員20名規模)で、2022年に取引先3社の代表者が相次いで亡くなるという不運が重なりました。1社あたり香典5万円・供花3万円の計8万円、3社合計24万円を支出しましたが、経理担当者が全額を「福利厚生費」で処理していました。
翌年の税務調査でこの誤りが発覚し、24万円が交際費に振り替えられました。その法人は同年の交際費が既に780万円あり、800万円の損金算入限度額にほぼ達していたため、振り替えた24万円のうち4万円が損金不算入になりました。法人税率を約23%とすると約9,200円の追加納税が発生し、延滞税も加算されました。
金額自体は小さくても、科目の誤りは「意図的な経費の付け替え」と疑われる場合があります。慶弔関連の支出は支払い先が社内か社外かを必ず確認してから科目を決定してください。交際費管理の詳細については[INTERNAL_LINK_2]を参照してください。
まとめ:弔慰金の法人経費処理で押さえるべき境界線
この記事の要点3行
- 弔慰金が損金算入かつ非課税となるには「慶弔規程の整備」と「社会通念上の金額相当性」が両輪で必要。どちらか一方が欠けると課税リスクが生じる。
- 業務外死亡の非課税目安は「死亡時の月額給与×6か月分」、業務上死亡は「×36か月分」。この数字を慶弔規程の金額設計の上限基準として活用する。
- 取引先への香典・供花は「交際費」、従業員・家族への弔慰金は「福利厚生費」と科目を明確に分ける。混同は税務調査での指摘対象になる。
次に取るべきアクション:慶弔規程の整備と会計ソフトへの反映
慶弔規程を整備したら、次は会計帳簿への正確な反映です。科目の振り分けミスは人の手で仕訳すると発生しやすく、毎回税理士に確認するコストもかさみます。私が法人の経費管理に使っているのはクラウド型の会計・確定申告ソフトで、勘定科目の候補が自動表示されるため、弔慰金のような「迷いやすい科目」でも入力ミスが大幅に減りました。
慶弔規程の整備と並行して、会計入力の自動化・効率化に着手することを勧めます。特に個人事業主から法人化したばかりの方、経理担当者が少ない中小企業の方にとっては、クラウド会計ソフトの導入は経費処理ミスを減らす有効な手段です。

コメント