退職金の分割払いは法人で認められるのか、という疑問を持つ経営者は少なくありません。結論から言うと、一定の要件を満たせば分割支給でも損金算入は認められます。ただし、税務署に否認されるリスクが伴う要件があり、規程の整備と支給決議のタイミングが命綱です。本記事では、私がAFP・宅建士として、また2026年に法人を設立した代表として実際に調べ整理した7つの要件と実務上の落とし穴を解説します。
退職金の分割払いが法人で認められる前提を整理する
「退職」の事実認定が出発点になる
役員退職金が税務上の「退職所得」として扱われるためには、まず「退職の事実」が明確でなければなりません。国税庁の取扱いでは、退職と実質的に同等の事情があるかどうかが判断基準とされています。単に役職が変わっただけ、あるいは実態として引き続き法人の経営に関与しているケースでは、「退職」と認定されない可能性があります。
私が保険代理店に在籍していた時、ある中小企業のオーナー経営者から「代表を外れて会長になったが、退職金は出せるか」という相談を受けたことがあります。その方は会長就任後も週5日出社し、事業判断の権限も変わっていませんでした。このケースでは「分掌変更」による退職金の一部支給という整理が可能ですが、給与が概ね50%以上減少していることなど、税務上の条件を慎重に確認する必要がありました。個別の状況によって判断が異なるため、必ず税理士や専門家に相談することを推奨します。
分割払いそのものは禁止されていないが「合意」が必須
税法上、役員退職金の分割支給を明示的に禁じた条文はありません。ただし、分割払いが認められるためには、株主総会の決議で「分割して支給する」ことを明確に定めた上で、支給総額・支給回数・支給時期を具体的に決めておく必要があります。
この「合意の明確化」が欠けていると、税務調査で分割支給の各回が「給与」と認定されるリスクがあります。給与と認定されれば、退職所得控除が適用されず、受け取る側の税負担は大幅に増えます。法人側でも、損金算入のタイミングや扱いが変わります。退職金規程と株主総会議事録の整備は、分割払いを選択するなら避けて通れない作業です。
私が規程作成で迷った点|法人設立後に直面した実務の壁
2026年の法人設立直後、退職金規程の「ひな型」に落とし穴があった
私は2026年に東京都内で株式会社を設立しました。民泊事業(浅草エリア)の運営を本格化するにあたり、将来の出口設計として退職金規程を早めに整備しておこうと考えました。インターネットで拾ったひな型を使って退職金規程の草案を作り始めたのですが、すぐに「分割支給の条項が一切ない」ことに気づきました。
ひな型の多くは一括払いを前提とした設計になっており、「資金繰りの都合で分割にしたい」「複数年度にわたって支給したい」というケースへの対応が抜けていたのです。損金算入のタイミングが変わることを知らずにいたら、かなり痛い目を見ていたと思います。結局、税理士に依頼して規程を一から作り直し、分割支給の条件・支給回数の上限・利息の取扱いまで明記した形に整えました。設立初年度の費用として想定外の出費でしたが、今になれば必要な投資だったと感じています。
「支給総額の確定」を先に決議しないと損金算入が認められない
規程作成と並行して学んだのが、損金算入のタイミングに関するルールです。法人税法上、役員退職金の損金算入が認められる時期は、原則として「株主総会の決議等によって支給額が確定した日の属する事業年度」とされています(法人税基本通達9-2-28)。
つまり、分割払いであっても、まず「支給総額」を株主総会で確定させることが先決です。「今期は500万円、来期は残りを払う」という曖昧な決議では、来期分の損金算入が認められないリスクがあります。総額を確定させた上で、支払いのスケジュールを別途定める、という二段構えの設計が税務上は堅固です。私はこの点をまったく理解していなかったため、顧問税理士に指摘されて初めて気づきました。
損金算入が認められる7つの要件を確認する
要件1〜4:決議・金額・規程・実態の4本柱
役員退職金の分割支給が損金算入として認められるには、以下の要件を満たすことが一般的に求められます。まず、①株主総会の決議による支給総額の確定、②「不相当に高額」でない金額設定(功績倍率法などを用いた算定)、③退職給与規程への分割支給条項の明記、④退職の実態(役員としての地位・職務の実質的な終了)、の4点が基本となります。
②の「不相当に高額」という基準は、法人税法施行令第70条に定められており、最終月額報酬×在任年数×功績倍率(一般的に2〜3倍程度)が目安とされます。ただしこれは一般的な算定方法であり、個々の事案によって判断が異なります。必ず税理士に個別の確認を取るようにしてください。
要件5〜7:分割支給に固有の3つの追加条件
分割払いに特有の要件として、⑤支給回数・支給時期・各回の金額が事前に明確に決定されていること、⑥分割支給に合理的な理由(資金繰り等)があること、⑦各回の支給ごとに源泉徴収義務が生じることを法人が正しく認識し履行していること、が加わります。
⑦の源泉徴収については後述しますが、分割払いの場合は支払いの都度、退職所得の源泉徴収が発生します。この点を知らないまま「とりあえず分割で払う」と決めてしまうと、源泉徴収漏れによる不納付加算税のリスクが生まれます。保険代理店時代に相談を受けた経営者の中にも、退職金の支払いを数年にわたって行った後で税務調査を受け、源泉徴収の問題を指摘されたケースがありました(詳細は個人を特定しない範囲で抽象化しています)。事前確定届出給与のメリット|個人事業主が法人化前に試算した7論点2026
源泉徴収のタイミングと実務上の注意点
分割払いは「支払いの都度」源泉徴収が必要になる
退職金を一括で支給する場合、源泉徴収は支払い時に1回で完結します。しかし分割払いの場合、原則として「支払いの都度」源泉徴収義務が発生します。ただし、退職所得控除は退職した年の1回しか適用できません。
退職者が「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合、初回支給時に退職所得控除を適用した上で源泉徴収税額を計算し、2回目以降の支給については退職所得控除を除いた計算になります。この仕組みを把握せずに毎回同じ計算をしてしまうと、過少徴収または過大徴収が発生します。実務上、分割払いを選択する場合は顧問税理士と支給スケジュールを共有した上で、各回の源泉徴収税額を事前に計算してもらうことを強く推奨します。
翌月10日ルールと納付漏れへの注意
源泉徴収した税額は、原則として支払い月の翌月10日までに国に納付する義務があります(納期の特例を適用している法人は6ヶ月分をまとめて納付できますが、退職金のような高額の臨時支給については別途確認が必要です)。
分割払いが複数年度にわたる場合、毎年の納付スケジュールを確実に管理しなければなりません。法人の経理を自分一人でこなしているマイクロ法人の代表にとって、これは意外と重い作業です。私自身、2026年に法人を立ち上げて経理を一人でやってみて初めて「源泉徴収の納付管理がこれほど細かいとは」と実感しました。会計ソフトを早期に導入して自動化しておくことが、ミスを減らす上で現実的な選択肢の一つです。
退職所得控除の扱いと受け取り側のメリット
退職所得控除は「退職した年」に1回適用される
退職所得控除の計算式は、勤続年数20年以下の部分が「40万円×勤続年数」、20年超の部分が「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」とされています(2026年時点の一般的な計算方式。詳細は国税庁の公表資料をご確認ください)。
分割払いを選んでも、この控除は「退職した年」に属する支給分に対してのみ適用されます。2年目以降の分割支給分には退職所得控除が再度適用されるわけではありません。したがって、受け取り側の税負担を考えると、退職所得控除を超える部分が大きい場合は分割支給によって各年の課税額を抑えられる面があります。ただし個人差があるため、具体的なシミュレーションは税理士に依頼することを推奨します。赤字決算でも融資を受ける5つの方法|公庫申請中の代表が解説
「2分の1課税」は分割払いでも維持されるか
退職所得は、「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」を課税対象とする「2分の1課税」の恩典があります。ただし、役員としての勤続年数が5年以下である「短期退職手当等」に該当する場合、2分の1課税の適用が制限される規定が設けられています(2022年度税制改正以降)。
マイクロ法人を設立したばかりで将来的に退職金を設計している方は、設立から5年を超えてから退職金を支給する計画を立てておくことが、税制上の恩典を活かす上で合理的な選択肢の一つです。私が法人を設立した際も、この5年ルールを頭に入れた上で退職給与規程に「支給対象は勤続5年超の役員とする」という一文を入れました。これはあくまで私自身の対応であり、個々の状況によって最適な設計は異なります。
まとめ:分割払いを選ぶ前に整えるべきことと次のアクション
7つの要件チェックリストと実務手順
- ① 株主総会で支給総額を先に確定させ、議事録に明記する
- ② 功績倍率法などを用いて「不相当に高額」でないことを確認する
- ③ 退職給与規程に分割支給条項・支給回数・支給時期を具体的に定める
- ④ 退職の事実(役員としての実質的な職務終了)を証拠として残す
- ⑤ 分割支給に合理的な理由(資金繰りなど)を文書で示せるようにする
- ⑥ 支払いの都度、源泉徴収税額を正確に計算し翌月10日までに納付する
- ⑦ 退職所得の受給に関する申告書を退職者から受領・保管する
会計ソフトで管理を自動化し、税務リスクを下げる
退職金の分割払いは、要件さえ整えれば法人で認められる制度です。しかし、源泉徴収の都度管理・損金算入のタイミング・規程の整備と、管理すべき項目が多岐にわたります。私が2026年の法人設立後に痛感したのは、「経理の自動化なしに一人で全部やると必ずどこかで抜けが出る」という事実です。
特に分割払いのような複数年度にわたる支給管理は、会計ソフトによるスケジュール管理と連動させることで納付漏れのリスクを大幅に下げることができます。AFP・宅建士として多くの経営者の資金設計に関わってきた立場からも、仕組みを整える前に道具を揃えることを推奨します。まずは無料で使い始められる会計ソフトで、支給管理と確定申告の自動化を検討してみてください。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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